yuriのblog

日々のあれこれや、小説・海外ドラマ・ゲームなど、好きなことについてたくさん書いていきます。

トニ・モリスン「ホーム」

 

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章を転載していきます。

 

 

「帰還兵の兄と悪意に流される妹。傷ついた兄妹のホームはどこに?」

2017.04.26

 


朝鮮戦争から帰還した兄フランクは心に深い傷を負っていて、いつまでも立ち直ることができずにいる。青春を共に過ごした二人の親友も失い、また自身が犯してしまった戦中のある出来事もあって鬱々とした日々を過ごしていた。

 

 

 

かつては故郷ロータスを嫌っていたフランク。一刻も早く離れたいがために自ら兵役を望んだのだが、けれど帰還した彼を待っていたのは思い出したくもない出来事の数々だった。

 

 

一方意地悪な義祖母に育てられた妹のシーは自己肯定をすることができない。本来なら目一杯の愛を注いでくれるはずの両親は貧しさのため朝から晩まで働き通しだったため、シーにとっての味方は兄一人しかおらず、しかし唯一の存在が戦地に行ってしまった結果、彼女はますます不幸の道を歩んでいってしまうのだった。

 

 

 

ある時フランクの元に届いた、妹シーが危篤状態にあるという知らせ。大嫌いだった故郷ロータスに戻ったフランクは過去の出来事を思い出しながら、愛する妹を救うべく急ぐのだが……。

 

 

トニ・モリスンの小説を読みきったのは本作が初めてだった。というのも以前別の作品を開いたことがあったのだが、独特の翻訳文体に慣れることができなかったのだ。

 

 

 

しかしそれから数年経って「ホーム」を読んでみた感想は、以前途中で放棄してしまったことを勿体無く思うほど、人間の本質を炙り出す文章に惹かれていった。それは、戦争や人種差別などといった目を引く題材が書かれているから、という理由だけでは決してなかったように思う。

 

 

 

人は自分という一人の人間でしか生きられないにも関わらず、その当事者である自分自身を一番理解できずにいる。それはある出来事をいつまでもクリアできずにいるフランクからもついつい悪意に流されていってしまうシーからも感じ取ることができたのだが、では兄妹が特別なのかと言えば決してそうではなく、誰しもが抱えていて当たり前の弱さなのだと思う。

 

 

 

自分自身を見つめるとは? 本当の幸せとは?

兄妹がたどり着くホームは、決して煌びやかではない。しかし、眼に映る景色はとてもあたたかく、揺るぎのない強いものに見えた。