yuriのblog

日々のあれこれや、小説・海外ドラマ・ゲームなど、好きなことについてたくさん書いていきます。

ポール・オースター「ミスター・ヴァーティゴ」

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。

 

「孤独な冒険さいこうです」

2019.05.06

 


男の子が主人公の物語が好きだ。
理由は、自分でもよく分からないのだが、成長していく過程を追いかけていると、子どものようにわくわくしてページをめくる手が止まらなくなる。

大好きな作家ポール・オースターの「ミスター・ヴァーティゴ」を読んだ。
作者のどの作品もほんとうに好きだけれど、影響を受けやすい単純な私は、いつも読み終えたものがその時点での一番になる。

というわけで「ミスター・ヴァーティゴ」、もう最高におもしろかった。
もしも誰かに感想を聞かれたら、おもろすぎたとしかいえないぐらいおもしろかった。最高だった。

表紙の絵が他の作品とは印象が違ったので、児童書よりの物語を想像していたのだけど、もちろんそういった面は濃くあるにせよ読み始めてみればいつも通りの、孤独感たっぷりの引き返せなくなるオースター作品だった。

主人公の少年は九歳で奇妙な師匠に拾われる。

「私と一緒に来たら、空を飛べるようにしてやるぞ」と声をかけられたのだ。
そんなこと言われても信じられるわけがない。なにを言うとんねんこのおじさんでしかないわけでけれども、だからといってほかに特別な居場所や目的があるわけでもなかった。

少年と師匠の長い冒険は始まる。
空を飛べるまでの道のりは残酷すぎるぐらい残酷だ。けれどもふたりの関係はふたりの間では、確実に成り立っているのであり、様々な出会いがあり、すったもんだありながら各地を果てしなく巡る。

おとぎ話的要素だけでなくそこにどうしようもなく現実感が漂っているからこそ、生活を回していかなければならないという日常が前提にあるからこそ空を飛ぶ、というのはメインではなくあくまでも一面としてたのしむことができたように思う。ていうかたのしめすぎた。しつこめの最高だった。ああなんでこんなにおもしろいの……

「少年」から「少年だった」、へ変わってゆく主人公。輝かしく人々の目を集めるときもあればまったくそうでないときもあり、なんだかものすごくこの物語は、というか毎度作者の小説は孤独な場所からひそやかに輝いているなあ、という印象、しんと静まりかえった、もちろん華やかな場面も描かれるけれども、それでも一人ひとりは個人、意識は深いところにあって、潜って味わうこの世界観がたまらなく好きなのでした。