yuriのblog

日々のあれこれや、小説・海外ドラマ・ゲームなど、好きなことについてたくさん書いていきます。

ジュンパ・ラヒリ「わたしのいるところ」

 

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。

 

 

どこかにいる「わたし」を通して

2019.12.10

 

 

淡々と、「わたしのいるところ」、いたところ、いた時の風景や心情が書かれている。
なにが起きるでもない。
わたしというひとりの人間がいて、暮らしている町があり、通っている場所があり、孤独を嫌う母がいる、以前には、恋人もいたが、いまはひとり暮らしで、仕事をしながらの日々のことが、「歩道で」、「道で」、「わたしの家で」、「自分のなかで」、「目覚めに」、など、いくつかの章に分かれている。
「わたし」の生い立ちなどはほとんど書かれていないが、それでも、読んでいると彼女の歩んできた道がぼんやりとみえるようでもある。冷静で、時にちょっと不安定でひとりであることの喜びも、また痛みも知っている彼女のことが。
具体的な地名はないので、とはいえ町並みの雰囲気は読者であるじぶんには馴染みはないのだが、それでも「わたし」の声は近くに感じた。また、彼女が抱え持っている孤独や、彼女からしかみえない視界をみながらひっそり勇気づけられているじぶんがいたのだった。
どこまでも逃れられない「わたし」の声を、わたしでない「わたし」を通して眺めてみることで幾多もの “わたし” も輪郭がゆるくなるのかもしれない。また内で起こっている衝突や、葛藤はどれだけあるにせよその動きは、持ち主にしかみられないからこそ “ひとり” のなかでもがいたり守ったり、楽しんだりもできる。

様々あって、それでも。
人と関わってきたからこその、「わたし」の言葉だなと思った。

傷つかないよう、殻にこもってばかりいるので、気付けばなんどもくりかえし読んでしまっていたのだった。