yuriのblog

日々のあれこれや、小説・海外ドラマ・ゲームなど、好きなことについてたくさん書いていきます。

アガサ・クリスティー「春にして君を離れ」

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。

 

 

「回想する彼女を追いながら私も」

2019.09.01

 


ハヤカワのコーナーで、目立って置かれていたので気になって。

ひとりの主婦が、旅先で自己を見つめ直す、というお話。
娘を見舞いに行った帰りで、彼女はこれまで自分は万事、夫婦関係も子供たちのことも上手くやってきたと思っていた。
たとえばひさしぶりに偶然、友人と再会したときも、あんなに綺麗だったのに、かわいそうに、といけないと思いつつもつい、友人を哀れんでしまうぐらいには築き上げてきたものに自負があった。

けれど、そんなふうに安心する「私」、をみる友人の目にはどこか含みがあるようにもみえた。
というのがきっかけになったのか、彼女は宿泊先に帰ってからも心を落ち着かせることができない。
本を読んでも絶えずザワザワとする心、私は、果たしてこれまで本当に大丈夫だったのか?
夫のことも、子供たちのことも……
それから何より自分自身のことも。

思い始めたら止まらなくなって、蘇ってくる過去の光景たち。
そういえばあの時はどうだっただろう?
うまくアドバイスしたつもりだったけど、独りよがりだったのだろうか。気にしていないふりをしていたあの光景も、じっさいは、重要な場面だったのではないか?
私は、一体、なにを「みて」きたのだろうか。

予定外に帰りは延びて、本も読み終えてしまって自分を真正面から直視せざるを得ない彼女、をみている自分も問いかけられているようで同じくザワザワとして落ち着かなかった。

彼女を、
主人公ジョーンを私はちっとも滑稽だとは思えなかったからだ。
だって、私だってきっと何にも分かってなんかない。

今日を、一分一秒を無駄にしないよう効率良く充実させなければ、正しくあらねばと縛られることも、分かったふりをしてしまうことも誰かの目が判断基準になることも。どれもに私は心当たりがあったから。

だから、やっぱり、彼女は遠い人なんかではないなあと思った、むしろすべてが間違いだったのかもしれないと、絶望しながらも問う姿からは弱さと同時に強さも人間らしさも感じられて私も何も分かっちゃいないことだけは分かっておこうと思って読み終わってもやはり心ザワザワとして、心許なくて落ち着かなかった。とても面白かった。です。