yuriのblog

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「きれいなシワの作り方 淑女の思春期病」村田沙耶香

 

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。

 

2016.10.29

 

 

「大人になったからこそ感じる、日々の思春期エッセイ」

 


「思春期」というと、学生時代の頃を思い浮かべる人が大半ではないでしょうか。初恋に胸をときめかせたり、急な身体の変化に戸惑ったり、暴走する心の変化に驚いたり……などなど、子供と大人の狭間にいたあの頃はある種特別な時間だったように思います。

しかし、では大人になったからといって完全に思春期を卒業したのかと言われると……私は迷わずノーと答えます。私事で恐縮ですがごく平凡な主婦をしている筆者でさえ、年齢を重ねたからこそ改めて実感する思春期に突入しているからです。

「あぁ~なんだか昔より痩せにくくなった……」「どんどん友人たちとの環境がバラバラになってしまって寂しい」「自分に似合う服が分からなくなった……」。数えればキリがないほど、今だからこそ痛感するようになった心や身体の変化がたくさんあり、まさに思春期街道まっしぐら……な自分。それらは当然ですが学生時代の頃には全く分からなかった感情であり、改めて新たな思春期のステージに足を踏み入れたのだなぁと感じさせられます。

本書「きれいなシワの作り方」~淑女の思春期病~は、芥川賞を受賞された村田沙耶香さんによる唯一のエッセイ集。著者が日々の中で感じた様々な思春期病を作家独自の目線から綴られており、私たちが(特に女性が)感じる様々な心の内に真正面から向き合うエッセイに思わず首をブンブン振りたくなるほど共感してしまいます。

作中では大まかに分類すると「身体の変化」「生活の中で感じる自意識アレコレ」「女性ならではの産む産まない問題」などの様々なカテゴリーがあり、現在アラサーと呼ばれる年齢に差し掛かった気にしすぎ小心者の私にとって(笑)、正に現在進行形でぶち当たっていた気持ちを代弁してくれているような、あたたかい優しさを感じる一冊でした。

例えば、最近では多くの人が使うようになった「SNS」。顔を合わさずとも自身をアピールできたり、共通の趣味について盛り上がったり、時には鬱屈した気持ちを聞いてもらったり、などなど使い方は人によって様々ですが、便利な反面見方によっては「私って実はこんな人間なんです!」というプロフィールのようでもあり、「人にどう見られるか」ということについて敏感になってしまう人にとっては、少々ありのままの自分を出しにくい面もあったりします。

そのような複雑な感情を本書の中の「自意識過剰とSNS」では作家さんならではの人間観察によって綴られており、思わず「うんうん」と相槌を打ったり、時にはフフフと笑ってしまうようなあるある話によって、なんだか新しい友人ができたようなホッとした気持ちにさせられます。と同時に、作家さんでさえ自意識を気にすることがあるのなら(あるいは特殊な職業である作家さんだからこそ感じるものかもしれませんが)、「一般人のそこらへんに生息している自分なんぞどんだけ自意識過剰なんじゃ~い!」という勇気さえもらうことができました(笑)。

また前述でもご紹介した「産む産まない問題」はパート2まで書かれており、タイムリミットという避けて通れない問題があるからこそ悩む女性たちの切実な思いを身近な友人たちの話を交えて綴られています。当然ですが一口に女性といってもそれぞれの人生があり、その中でみんな必死に「何が正しいのだろう」「どの道を選べば後悔しないのだろう」と模索している。そこに必ずしも正解があるわけではなく、あくまでどう感じるかは自分自身だということも分かったうえで、だからこそ真剣に一生懸命に悩む「産む産まない問題」は、私を含め目を通した多くの女性が励まされることでしょう。

最後に、私が一番笑ってしまった章が「モテモテ老人ホーム」。細かな内容は読んでのお楽しみということで避けますが、独身同士で集まったときに繰り広げられた老後の設計図が見事に一致するという面白あるある話です。かくいう私も、独身の頃、そして結婚した後も老人ホームで過ごす未来予想図を考えたことがあったので(どんなポジションでどんなおばぁちゃんとして立ち振る舞うかなど……笑)思わず声を出して笑いそうになりました。

本書は美容や出産の話など女性ならではの話題が多いですが、先ほど挙げた老人ホームの話や健康の話など男性が読んでも共感できる部分がたくさん出てきます。また多くの作家が村田沙耶香さんのファンであることを頷けるほど、時に自意識過剰すぎるエピソードに笑顔をたくさんもらえることでしょう。

最近芥川賞を受賞されたこともあり「コンビニ人間」がもっぱら話題沸騰中の村田沙耶香さんですが、それを含めて「どこか特有の価値観をもった主人公」を題材にした小説を多く発表されています。いろいろな目線や価値観を知る作者だからこそ読者の心に刺さるエッセイ、ぜひぜひ堪能してみてはいかがでしょうか。きっと、大人の思春期に戸惑ったときの心強い味方になってくれますよ。私も今しかない思春期を悲観するのではなく、本書と共に楽しんでいけたらなぁなんて思うのでした。