yuriのblog

日々のあれこれや、小説・海外ドラマ・ゲームなど、好きなことについてたくさん書いていきます。

「しあわせのねだん」角田光代

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。

 

「何気ない「ねだん」の中にあるしあわせたち」

2016.11.07

 

昨日新しい靴を千円で買いました。靴で千円!?と驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、近所にふらっと履いていく程度のスリッポンなので、私としては「まぁこんなもんか!」という感想でした。ブーツやパンプスなどとっておきの一足が欲しい場合は、もしかするともう少し値段が高いもの、あるいは機能性の優れたものを選ぶかもしれませんが、ちょっとお出かけ程度に支払う値段としては妥当かなと感じたのです。

ですが、もしもこの靴を目にするのが給料日前日で、今夜の晩御飯を買うのが精一杯……という状況だったとしたら。きっと千円という値段を見ても、私はスリッポンをレジへ持っていくことはなく、少し落ち込んで帰ったかもしれないなぁと思います。

普段何気なく目にしている「ねだん」ですが、実はそのときの気持ちや状況によって受け取り方が全く変わってくるのだなと思いました。突然どうしてそんなことを思ったかというと、靴を買ったのが角田光代さんの「しあわせのねだん」を読んだあとだったからです。

本書は角田光代さんの「ねだん」にまつわるエピソードが綴られているエッセイ。

昼めし 977円 健康診断 0円 キャンセル料 30000円

などなど、日々の中で出会ったねだんと共に遭遇した話がまとめられています。

普段執筆活動でお忙しい角田さんがよく行くお店での出来事。バレンタインのチョコを買いに行ったら、その驚くほどの人だかりと種類に思わず圧倒するもかかんに参戦。健康診断に縁がなかったのに、お見舞いに行った病院で張り紙をみつけてチャレンジ。

その先々で支払う(あるいは支払わない)ねだんたちから繰り広げられるエピソードは、数字の高い低いに関わらずとても刺激的ですぐに読み終えてしまいました。

中でも私が声を出して笑ってしまったのは

イララック 1000円

というお話の中で、後ろにたくさん人が並んでいるにも関わらず秋刀魚を選ぶ親子がとても遅く、あげくのはてに開き直っている様子を見て米袋で母親の頭に殴りかかりたいほどイライラしてしまったというおはなし。イララックというのは自身の短気を心配した角田さんが友人に勧められた薬なのですが、「飲むとしてもどのタイミングで飲んだらいいの?秋刀魚を選んでいる最中?そのあと?そんなことよりも自分の怒りは正しいの?」という話には本当に笑ってしまいました。

そのほかにも

記憶 9800×2

では、お母さんの誕生日に一緒に旅行へ行かれたときのなんとも切ない、しかしとてもあたたかな家族のおはなしが描かれています。インターネットで予約した旅館が悲しくも最悪だったらしく重苦しい空気が流れてしまうのですが、後から思い返してしまうのはきまってその旅のこと、という話にはなんだか感慨深いものがありました。

わたしたちは嫌でも死ぬまでお金に付き合っていかなければならず、だからこそ「何に使うか」「何に使わないか」を悩み続けます。値段にかかわらずその中でいろいろなものを得たり失ったりすることは、きっといつか目に見えなくとも自分の糧になるのかもしれません。

本書を読み終えて、これから出会う「ねだん」の数々に私も上手に付き合っていけたらなぁと感じるとともに、そのことがとても楽しみになった大満足の一冊でした。