*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。
誰だって、できれば「いない」って言いたいけれど……。
2016.11.05
益田ミリさんの描くコミックエッセイは、ゆるいイラストと一緒に繰り広げられる心の本音が特徴的。
題材になっているテーマはごくありふれた日常なのですが、毎日の中で起こるささいな気持ちを汲み取ってくれていてとても共感できます。いい意味で綺麗事がないのです。
その言葉たちは深く胸に突き刺さるとともに、主人公のイラストも可愛いので重すぎず読むことができます。
なんだか日常に疲れてしまったな……というときにページをめくると、主人公がネガティブになっている自分を
「だいじょうぶ。わたしもだよ!」
と肯定してくれている気持ちになるから不思議です。
そんな益田ミリさんの著作から今回ご紹介させていただくのは、
大人気すーちゃんシリーズの「どうしても嫌いな人」。
私はすーちゃんシリーズを読む順番がバラバラになってしまい本書を一番先に読んだのですが、
もう心の底から共感してしまう言葉の数々に胸がグッと締め付けられるようでした。
私はまず「どうしても嫌いな人」というタイトルを見ただけで心を奪われました。
「嫌いな人」でも「苦手な人」でもなく「どうしても嫌いな人」。
つまり、頑張って好きになる努力はしてみるものの……やっぱりどうしても嫌いな人なのです。
大人になって、愛想笑いもお世辞も冗談も覚えて、それでもどうしてもどうしても嫌いな人。
できれば、願わくば、
「ん~。わたし嫌いな人ってそんなにいないですね!」
なんてクールに言いたいけれど、やっぱり人間である以上、心のありかたも感じ方もまるで違います。
こちらから敵対視したいわけではなくとも、「あ~~やっぱり嫌いだ!」という状況はたびたび訪れてしまうものなのかもしれません。
物語の中で、主人公すーちゃんは同じ飲食店に勤める同僚の言葉がいちいち心に刺さってしまいます。
会話の中のささいな一言ではあるのですが、それが積もりに積もっていくと「どうしても嫌いな人」になってしまうのも無理はありません。
また、物語はすーちゃんの話と一緒にあかねちゃんの「結婚する?しない?話」も並行して進みます。あかねちゃんの「結婚したいけれど本当にこの人でいいのだろうか……」という気持ちにも痛いほど共感でき、どちらも読者の心を鷲掴みにして離しません。
そして最後のすーちゃんとあかねちゃんの決心には、私自身大きな大きな勇気をもらえました。
私はこの作品を読んで、当たり前ですが世の中にはいろいろな人がいること、そしてその中でどうしても嫌いな人が表れてしまっても少しも珍しいことではないのだと思いました。
また、人を嫌いになってしまった自分を責め立てるのではなく、そんな自分の気持ちを受け入れてあげることも間違いではないのだと。
と同時に、「自分から見る視点」と「相手から見られる視点」は違って当然であり、どちらにも言い分はあるのだということ。そして100パーセント正しいことなんてないのだから、それなら自分を愛してあげることを優先してもきっと大丈夫なんだと感じたのです。
本作「どうしても嫌いな人」は、一見軽いコミックエッセイのように見えますが、読んでみると深い深い大切なことがたくさん詰まっていて大満足の一冊でした。
すーちゃんありがとう!