yuriのblog

日々のあれこれや、小説・海外ドラマ・ゲームなど、好きなことについてたくさん書いていきます。

「前進する日もしない日も」益田ミリ

 

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。

 

「たった1人しかいない自分に自信をもつこと」

2016.11.14

 

 

本書「前進する日もしない日も」。この作品はコミックエッセイという形ではなく、益田ミリさんの日常が文章のみで綴られているエッセイです。

書かれていたときが「結婚しなくていいですか。すーちゃんの明日」「どうしても嫌いな人 すーちゃんの決心」を出版された時期とかぶっていたということで、すーちゃんに共感しまくっていた私は迷わず本を手に取りレジへ向かったのでした。

(すーちゃんシリーズって一体どういうの?と思われた方は、ぜひ前のレビューに目を通して頂けると嬉しいです)

私の場合エッセイというものを読むとき、作者の方に作品のイメージを重ねることが多いのですが、本書「前進する日もしない日も」というタイトルからも伺えるとおり、「人生いいときも悪いときもあるよね。でもきっとそれでいいんだ」と勇気をもらえる想像通りのとてもいいエッセイでした。

例えばどうしてもイライラしてしまう日があって、そんな自分に自己嫌悪を抱いたとする。けれど、「はぁ、こんな自分は嫌い!どうにかして変えなくちゃ!」と決意しても、気合いだけで180度変えられるものではありませんよね。

そんなときは無理に自分を否定するよりも、今抱えている気持ちを認めてあげたほうが楽になったりします。

「だってわたし、神様じゃないし」

と、時には傷ついたりイライラしてしまう自分を肯定して、
ちゃんと「心が機能していること」を褒めてあげる。完璧な人間なんていないけれど、それでも私という人間をずっとやってきたことは間違いないのだから……そんな優しいエールをエッセイから感じることができました。

例えば作品の中で、作者は真面目に歯医者に通っていたにも関わらずどんどん痛みが増していくことに不安を感じます。けれど相手は「先生」なのだから、間違った治療をしているはずがない。そう思って通い続けるのですが、器具をぞんざいに扱う先生にとうとう不信感を抱き別の歯医者へ足を運んだところ、削りすぎて神経を抜かなければいけなくなっていたことが判明。

ずっと先生だと思って我慢しつづけ、治療費も払っていたのに……!

 

全く同じシチュエーションではなくとも、日常生活において同じようなことが多々あるよなぁと頷いてしまったわたし。たしかに常識のようなものはあるけれど、汚い気持ちをもったときは自分が嫌な人間に見えるけれど、それでも自分としてずっと生きてきたんだから。そう気づかせてくれた作者に感謝の気持ちがわいてきました。

他にも編集者との打ち合わせで感じたことや女友達とのたわいのない旅行のことなど、日々の中でおこるちょっとした気持ちを素直につづったエピソードたちは、読者の心をほっとさせてくれます。目の前の景色が急に明るく変わるわけではなくとも、なんだか作者とふたりきりでおはなししているような心の温かさがあるのです。劇的に変わる景色は長く続かないかもしれないけれど、ふと気づけば味方でいてくれる。益田ミリさんのエッセイにはそんな不思議なパワーがあるなぁと思いました。そしてそのパワーは消えそうにないから頼もしいのだなぁ。

「頑張れ頑張れ!」。そんなふうに前進することばかりが正しいと焦ってしまうことがあります。けれど、ときには止まって動かなくなっても、いやずいぶん後ろに下がってしまったとしてもだいじょうぶ。本書はそんなふうにそっと寄り添ってくれる一冊だなぁと思いました。だってそんなふうに悩む自分も、たった一人しかいないのだから、と。