*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。
「消えていったことばたち」
2017.08.05
誰かのほんとうのことなんて何ひとつ知り得ないように、どんなに輝いてみえる夫婦でもまるで想像とかけ離れた場所にいるかもしれず、きっとそれはあらゆることに通ずるものだ。
そうおもうと日常で発していることばなんてほんの一部であって、では消えていったことばたちはどこへいったのだろう。
加藤千恵さんの小説を初めて読んだ。
ある日主人公のもとにとつぜんあらわれたひとりの女性。
古臭い鞄をもち、だらしない体型をしているその女性はいままでの結婚生活をかんたんに壊してしまう。
見てみぬふりをしてきたあらゆる感情はあったものの、それでもしあわせに暮らしていた「わたし」は勃起不全であったはずの夫が不貞を働いていたことを知らされたのだった。
セックスだけがすべてではない。だってわたしたちはこんなにも仲良くやっているのだから。そう言い聞かせてきたわたしにとつぜん降りかかった真実は影を落として……。
読んでいて「わたし」の抱えている思いがくるしくてそのどれもに心当たりがあった。起こった事実に、というわけではなくどうしようもなく消えていったことばたちに。
そしてまた夫「ユキ」のことばが信じられるからこそもどかしく、悪事を働こうとしたわけではない、けれど結果的に名前をつけるならばそうなってしまうものがこの世にはあって、誰が悪くて悪くないかなんてわからなかった。