yuriのblog

日々のあれこれや、小説・海外ドラマ・ゲームなど、好きなことについてたくさん書いていきます。

ローベルト・ゼーターラー「ある一生」

 

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。

 

 

「ひとりの『ある一生』を通して」

2019.12.02

 

 

とても静かな物語。けれどしんとした部屋で読んでいたら主人公アンドレアス・エッガーの踏みしめた人生の一歩いっぽが、頭のなかで景色になって聞こえてくるようでゆっくりと読んだ。
ひとりの男の人生を文字と共に追う。
幼少期には養父から虐待をうける。読んでいて辛い場面である。彼はそのせいで足に傷を負い、片足を引きずるようになるのだが、いっぽう義父のどの子どもらよりも逞しい体に育つのだった。
彼は人生のほとんどを厳しい寒さの山で過ごす。ひとつの恋があった。彼女のため日雇いより安定を願ってロープウェイ建設の一員として日々働いた。危険と隣り合わせの、決して楽でない仕事である。重傷を負った仲間もいた。山を切り開いていった。
思い届いて家族という幸福を味わったエッガーだったがその生活も長くは続かなかった。いつも、ちかくには自然の美しさとまた当然ながら脅威もあったのである。その後戦争があった。振り返ればそれが、彼にとっての数少ない故郷から出た年月でもあった。
身におこる出来事を、ほかの誰とも比べず、ただ生きる。村の住民らには、地味で、孤独に映ったろう。
事実、たしかに孤独と共に常に生きたエッガーだったが、読者は、彼の人生が決して不幸だけでなかったことを知る。むしろ、彼は誰よりも静寂を慈しんでいた。雄大な景色と、自然の音と、それからなによりも自己との対話があった。彼は、彼自身のなかに人生の味わいを深く感じていたから、読んでいるうちにそうだよなあと、一瞬いっしゅんを「ある一生」を通して確かめたくなるようなそんな、静かで余韻のある一冊であった。