yuriのblog

日々のあれこれや、小説・海外ドラマ・ゲームなど、好きなことについてたくさん書いていきます。

「明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち」山田詠美

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。

 

 

 

“人が一人いなくなる”とはどういうことなのか

2017.03.30

 


テレビやネットのニュースでは、毎日のように事件が報じられている。その内容は地震だったり交通事故であったり様々だけれど、心に余裕が無いと真正面から受け止めることができず、思わずチャンネルを変えてしまうことも少なくない。

「明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち」を読んだ。物語に登場する家族は今で言うステップファミリーで、一人一人の思いはあるにせよ、世間一般で言う平凡な家族として成り立っていた。ある日突然、家族からも友人からも愛されていた長男が、雷に打たれてこの世からいなくなってしまうまではーー。

読みながら考えずにはいられなかった。「人が一人いなくなる」ということは決して一つの出来事ではなく、家族の人数だけ、もっと言うと関わった人の数だけ「死」の形があるのだと。だからこそ、どんどん壊れていく母の姿を哀れに思うことなんてできなかった。だってそれが母にとって唯一の、正しい死の受け止め方だったのだから。

ただそこにいるだけで人を笑顔にさせていた兄。そんな兄の突然の死は、当然ながらそれぞれに痛みを与えてしまう。そんな状況をよそに無情に時間は過ぎてゆくのだが、もがきながら必死に時を繋ぐ景色には「いない」兄の存在が痛いほど感じられるのだった。

「本日◯◯で事故があり◯人の死者が出ました」。遠くない未来、悲しくも、アナウンサーが読み上げる声を耳にするかもしれない。その時また私はチャンネルを変えるかもしれないし、いつ自分が当事者になるかも分からない。

けれど、人が一人いなくなるということは決して一瞬の出来事ではない。また、規模で推しはかれるものでもない。そのことを、一つのありふれた、しかし愛すべき家族の物語が教えてくれたように思う。