yuriのblog

日々のあれこれや、小説・海外ドラマ・ゲームなど、好きなことについてたくさん書いていきます。

「それを愛とまちがえるから」井上荒野

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。

 

 

「夫婦って格好悪くてどうかしていてだからこそおもしろい」

2018.01.29

 

「それを愛とまちがえるから」を再読した。

結婚十五年目をむかえた夫婦が描かれる。

二人暮らしには広い家を買い、妻は無駄遣いしないけれど習い事をする余裕もある。きちんと仕事をもつ夫。一見ごくありふれた夫婦は、けれどセックスレスという事実があり、またお互いに恋人もいるのだった。

「あなた、恋人がいるでしょう」
 なんてことのない朝、先に口火をきったのは妻のほうだった。まるで、きょうはご飯どうするの? というような、ごく普通の会話のように。

 書かれている言葉のやりとりが、他人が聞けば気にも留めないような応戦がぶちぶちと心に刺さる。夫婦が、結婚が良くないものだとおもっているのではないけれど、結婚は日々の積み重ねという、ひとことでいうと「生活」という二文字だというのをまざまざと思い知らされるのだ。
 ふたりは、その生活を感情でぶち壊すことはしない。お互いに、恋人がいるとはいえ相手のことが気がかりで、確かな結論など今すぐには求めていないのだ。

 

 繰りかえし読んでしまったのは、責めたてた経験や決まったゴールがないからこそのどんよりした空気に見覚えがあるからだろうか。伽耶と匡のように正解がないからこそのもがきを。
 そして、登場するのはふたりだけではなく、お互いの恋人……つまり浮気相手も出てきて一気に加速する。浮気相手は浮気相手だけで終わらず、四人それぞれの目線で語られる日々がやるせなくって切実で、思わず、ときどきくすりと笑ってしまう。
 いや、くすり、というのは間違いかもしれない。にやり、だ。なぜなら、物語はそこから四人総じての結論は先延ばしにするぜとりあえず今はこうしておくぜ状態が加速していって、なんだかカオスなことになっていくから。この状況ぜったいおかしいやん間違ってるやんでもどうしたらいいねん! ってこと、少なからずみんなあるよなあ。
 二度目だけれども、夫婦っておもしろいなあとおもう。一番傷つけたくないとおもいながら人生をかけて傷つけて、かとおもえばどうでもいいようなことで呼吸困難になるほど笑いころげたりして、夫が兄になったり弟になったりして。
 四人の一瞬一瞬は格好悪くておもいっきりどうかしていてわたしには、つくづく、愛すべき時間の集合体だった。