yuriのblog

日々のあれこれや、小説・海外ドラマ・ゲームなど、好きなことについてたくさん書いていきます。

エリザベス・ストラウト「オリーヴ・キタリッジの生活」

 

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章を転載していきます。

 

 

「寄り添う」

2018.11.04

 


目が覚めて、起き上がるまでベッドの中でもぞもぞと明るい場所に出るのを渋る。ポットのお湯を注ごうと思ったらコンセントが抜けていた。着替えようと思い、お気に入りの服を探そうとするも見つからない。ようやく掘り出したと思ったら全てを諦めたかのように萎びてた。

一日の動きは、たいていの場合、そんなものでしかない。

ニュースではどこかで今日も何らかの事件があったことを伝えているけれど、確かに心をかき乱すには十分だけど。

でも、今ここで起きていること。自分だけが知っていて、小さくて、誰かに話したとたん効力も薄れてしまうような取るに足らないことが確かに在る。でも忘れてた。だから私は、この小説を読みながら、ああこういうことだよなあって、具体的に何に対してかは分からないけれども絶えず思っていた。

 

海の見える町クロズビー。タイトルにもなっているオリーヴ・キタリッジが住んでいる町だ。

最初の「薬局」という短編では、オリーヴの夫目線から物語が紡がれている。オリーヴという癇癪持ちで、意地っ張りで好き嫌いがはっきりしている妻とともに暮らしているヘンリー。毎朝、起きて、仕事場である薬局へ向かう道のりをたのしみにしている。それから、道のりの景色の移り変わりも、店について薬品が並んでいる光景を見ているのも心地いいと思っている。

私はこの最初の短編から心を鷲掴みにされてしまった。ヘンリーという、気立てが良くて愛想が良くて、嫌われるのを好まないひとりの人間のすがたがまるで親しい間柄のように浮かんだ。

それからはむさぼるように読んだ。でもこの小説の良さは、むさぼるように読んでは消えてしまうことが言葉の一つひとつを見ていると明らかだったから、慌てて戻ったり、口に出して読んだりもした。

町のなかでの人々の暮らし。生活。過ぎてゆく時間。二度と戻らないもの。かき乱される心の中なんてまるで存在もしないようにきらきらと海面は光る。光り続けてる。

オリーヴは暮らしてる。教師をしていた過去。昔の生徒たちの存在。夫ヘンリーに襲い掛かる苦難。オリーヴからみた景色。オリーヴをみるひとの景色。ふと一瞬の間オリーヴを思い出すひとの記憶。オリーヴを忘れたひと。もういないひと。まだいるひと。それらが、少しだけ絡まりあったり、離れたりする。とても孤独だなあとも思うし、でも、孤独だからこそ感じられる喜びや切なさが、静かではあったけれど、確かにあった。寄り添ってくれていた。読むごとに、オリーヴを近しく感じた。少なくともこの本を読んでいる間は大丈夫。という根拠のない自信があった。

人が、人とかかわりあうことで生まれる、あるいはかかわらないことで生まれる寂しさ。感情の動き。を綺麗ごと一切なく真正面からぶん投げてくれるこの本が好きだ。とても好き。球の速度は遅い、でも抜群の安心感があった。