yuriのblog

日々のあれこれや、小説・海外ドラマ・ゲームなど、好きなことについてたくさん書いていきます。

「朝ごはんぬき?」田辺聖子

 

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。

 

 

「いろんなみかた」

2019.03.26


「朝ごはんぬき?」という小説を読んだ。

とにかく読みながらおもっていたのはみんながかわいい。
外見がかわいい、という意味のかわいいではなく人間らしさがダダ漏れでかわいいのである。

わたしは、小説のなかに人間らしい、言い方をかえれば「格好悪い」ところを持ち合わせている人物がでてくるとうきうきしてしまう(もちろんそれが魅力でもあって両面があるのは前提として)。

いっぺんにそのひとたちのことがすきになってしまって、単純に、全身装備の完璧人間よりも信用できるのだとおもう。元気をもらえるのだとおもう。

主人公は明田マリ子、三十一歳。失恋をし、会社を辞めていまは作家秋本えりか先生宅で住み込みのお手伝いをしている。

売れっ子の秋本えりか先生はとにかくあらゆる面でいそがしい。
気性は激しいし、インスピレーションの神様がおりてくるまでには時間がかかる。
編集者に原稿をわたすのは、いつも月末の締め切りギリギリだから、家にはひっきりなしに催促の電話がかかってくる。「私」はそのどれもに「万事うまくいっておりますので」などと迫真の演技で対応をする。

では書ける神様とやらがおりてくるまでえりか先生はなにをしているのか。
単純に、書いていない。なんだかほかのことに熱中している。ハラハラする「私」。間に合うのかしらん?
でも、「先生そろそろ……」なんていってしまった日にはえりか先生は、ふん!とぷりぷり機嫌を損ねて怒り出してしまう。

そのほかたくさんのチャーミングな登場人物たち。

えりか先生の夫はなにを考えているやらわからない感じだけど、どこか哀愁がただよっていて放っておけない雰囲気だし、その夫と息ぴったりの編集者有吉太郎、通称ジャガ芋は立ち回りがうまくて痛いところを突かれるとするり華麗に、逃げ去る才能を発動させる。

えりか先生のおきにいりイケメンの鈴木ノボルくんはけれども弱々しいところがあって、ゆびでつんと押したらそのまんま倒れてしまいそうに頼りないし、先生の娘さゆりちゃんはカップラーメンばかり食べているし、食事担当のお牧さんは何事にも動じなさすぎてもはや陰の主のよう。
たびたびおとずれる青年は作家志望のくせに「上巻や第一章は書く気にならない」という変人ぶりで、なんていうかもうみんな癖がつよすぎる!すき!と表明したいきもちなのである。

とくにすきだった場面、とある朝の、ふつかよいのえりか先生。

わたしはにたにた笑いながら&元気をもらいながら読んでいた。

何事にも「見方」というのはあって表面だけで判断すればしんどいようなことも、角度をかえると笑える。ということもある。

えりか先生の周りはいつだって騒がしいけれども飽きないし、自分のことでいうとわたしはこの本をのど風邪こじらせ高熱あたまぐわんぐわんのなかで読んでいたのだがそういえばきょうを思い返してみたらめちゃくちゃ我儘言いまくってたよなあとか、でも冷静に考えてみたら我儘もひとり小芝居みたいでわざとらしくて阿保みたいやったなあとかおもっていた。つまり置き換えて笑えていた。

物事の片方、つまり悪いほうにしか目をむけられなくなったら「いろんなみかた」を引っ張り出してこなければ。なあんておもえた楽しくて深い一冊であった。