yuriのblog

日々のあれこれや、小説・海外ドラマ・ゲームなど、好きなことについてたくさん書いていきます。

「真昼なのに昏い部屋」江國香織

 

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。

 

「登場人物に心占められて」

2019.06.17

 


ご飯食べて、小説、お風呂入って、小説、なんて具合に生活の隙間にいつも物語がある。
それで、ぱきっと切り替えることができないので、ご飯を食べながらも、お風呂に入りながらも、さっきまで読んでいたシーンとか、登場人物たちについて考えてしまうことが多い。

最近は、「真昼なのに昏い部屋」に出てくる「美弥子さん」についてずっと考えていた。
なんといっても美弥子さんは興味深いのだ。ものすごく、ものすごく「きちんと」しているから。きちんとし過ぎているから。

私は、美弥子さんをみていると「仕事」とは何だろう、と思う。
金銭を得ること? 他者に認められること?

美弥子さんは主婦だ。浩さんという夫がいて、まるで軍艦のような広い家に住んでおり、日々、家の仕事に一生懸命。それはもう、圧倒されるぐらいに一生懸命なのだった。料理も、掃除も、水やりも、買い出しも。誰にも監視されていないのに、けれども、ほんとうに満たされた様子で。

気付いたら私は、美弥子さんに惹かれている。美弥子さんの生命力がまぶしいし、もっとみていたい。
物語に出てくるジョーンズさん、と同じように私は、美弥子さんから目が離せなくなっている。

美弥子さんとジョーンズさん。ふたりは単なる顔見知りから、フィールドワーク、とジョーンズさんが呼ぶところの散歩へ出かけるようになる。いろんな景色をみる。美味しいものを食べる。ものすごい引力で距離を縮めるふたり。ですます調の文体が醸し出す雰囲気がなまめかしくて、作品の世界観にどっぷりと入り込んでしまう。

急展開があるわけではないのに、お互いの心を占領しあっているふたり、あ、というまに最後まで、美弥子さんの鈍感すぎるところも、恐ろしいほど真面目なところにも夢中になっていた私は、ぜんぜん違っていると思っていたじぶんと美弥子さんとの間に、ものすごく似ている部分も発見してしまって、ぱたんと閉じたあと、その結末に、いや、やっぱり美弥子さんというひとりの人間について深く、心占められて考え込んでしまうのだった。