*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。
「生きることは食べること」
2016.11.02
どうでもいい情報なのですがわたしはそのへんのどこかにいる平凡な主婦です。正直ひとり暮らしをしていたときには仕事が忙しいというのを言い訳に自炊をほとんどしませんでした。
では結婚した現在はどうかというと、いまだに毎日の献立を考えるのが精いっぱいなレベルです。
我ながらもうちょっと頑張れよとは思うのですがこの先
「カレーはスパイスから作ります!」
なんてことを言える日がくるとは思えません。
とはいえ得意不得意と好き嫌いが比例するとは限らなくて。
なぜなら私自身出来栄えに自信はなくとも作ることそのものはとても好きだからです。
例えばお鍋でお湯をグツグツ煮立てている音を聞くとなぜか安心するし、野菜を一心不乱にザクザク切っているとストレス発散にもなります。何よりも自分で作ったご飯を食べてもらうのは本当に嬉しいし、
「美味しい!」
なんて言ってもらえた日には心の中でスキップが始まるから単純です。
今回ご紹介するエッセイはサラバで直木賞を受賞された西加奈子さんによる食をテーマにしたエッセイ。本書「ごはんぐるり」には西さんが日々の中で出会った食べることにまつわるエピソードたちがたくさん詰まっていて読んでいると思わずよだれが出てきそうになります。
あくまでも生活の中で当たり前のように出てくるごはんのことが書かれているので特に料理が得意でない人にとっても十分楽しめる作品になっています(語弊があると申し訳ないのですが本書を読むかぎり西さんはとっても料理上手な方でした!)。
例えば「バイト先でのまかない」「デートで連れていってほしい “ちょうどいい” お店について」「はじめてのひとり寿司」「子供の頃作った味のない味噌汁」などなど。生きてきた中で自然に出会ったごはんの話がたくさん綴られています。
特に私が面白く読んだのが「ちょうどいい」シリーズ。好きな人が予約してくれたお店によって無意識のうちに人となりを探ってしまったり、チョイスがパーフェクトすぎると「完璧すぎひん?」とたじろいでしまったり。そこから話が白熱して合コンで答えるちょうどいい芸能人は誰かというエピソードには思わず声を出して笑ってしまいました(一文だけ切り取ってしまうと語弊があるのでぜひぜひ目を通してちょうどいいシリーズを堪能していただきたいです笑)。
また旅の途中で食べる機内食が美味しいという話にはとても共感しました。それは機内食そのものが美味しいというよりも異空間の中でスチュワーデスさんに「ビーフORチキン?」と聞かれる飛行機の中だからこそ美味しく感じるのだと思うし、思い返せば子供のころ遠足の前に駄菓子屋に買いに行ったお菓子は自分で選んだからこそ格別に美味しかったです。
私は読み進めながら「生きることは食べること」で、だからこそ思い出の中に味や匂いが染みついていて離れないのだなあと思いました。高いお店で食べるご飯は素晴らしいし嫌でも脳に染みつくけれど、そうでなくとも普通に過ごす毎日の中にもたくさんの思い出が詰まっているのだなあと。
イラン産まれカイロ育ちという特殊な経歴をお持ちになりながらもそれをひけらかすことのない西さんのごはん話は本当に楽しくて、頭に情景が思い浮かぶようでした。
生きていると時に辛いことがたくさん起こります。そしてそのたびに「なんで私は生きてるんやろう」とついつい考え込んでしまうことも少なくありません。ですが生きる意味を突き詰めるよりもただただ食べて寝るという本来の尊さを改めて感じたのでした。