*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。
「たった一つの出来事で、世界は簡単に壊れてしまう」
2017.03.30
平凡なサラリーマンとして働いていた崇は、ある日突然、痴漢冤罪という予想だにしなかった事件に巻き込まれてしまう。全く身に覚えがないにもかかわらず相手の女性は興奮しながらまくしたてており、駅員にも信じてもらえなかった崇は、逮捕を免れるために示談金を払ってしまう。
一度目の妻との間にできた中学生の息子、渉。子連れの自分と初婚にもかかわらず夫婦になってくれた妻、絢子。大切な二人に言い出そうとするものの時を同じくして妻の妊娠が発覚したこともあり、ついに痴漢の言いがかりをつけられたことは崇の胸の内に秘められることとなる。
思春期という難しい時期にさしかかっているにもかかわらず、良好だった息子と継母の関係。マイホームのローンはまだまだ残っているけれど、新興住宅地に住む城戸家は、ごくごく平凡な日常を送っていたのだった。
が、崇が胸の内に秘めたはずの事件がどこからかあっという間に近所に漏れてしまい、そのせいで一家はあらぬ疑いをかけられるようになる。会話が飛び交っていた家族は一気に終わりの見えない崩壊への道を突き進んでしまうのだが、果たして先に希望は見えるのか……。
ページをめくるごとに次々と降りかかる災難が、読んでいて本当に苦しかった。なぜここまでひどい目に合わなければいけないのかと、フィクションにもかかわらず憤りの気持ちでいっぱいになった。
しかし、では城戸家に起こった一連の不幸が実際に起こり得る可能性が無いかというと決してそんなことはなく、満員電車に揺られながら通勤する人々とその家族の数を思うといつ何時このような災難が起きるとも限らないのだった。
たった一つの出来事で、世界は簡単に壊れてしまう……。そのことを嫌というほど痛感するとともに、たとえそのような状況下に置かれても絶対に離してはいけないものは何なのか、読み手に問いかけられているような気がしてならなかった。