*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。
「一瞬にしてあの頃」
2019.05.16
本を読み、懐かしい曲を部屋で流していたら、一瞬にして「あの頃」へと逆戻りできてしまって、すっかり忘れていた学生時代のことが昨日のことのように蘇ってくる。
近頃はあの頃よりも一年という単位がさほど特別ではなくなってきた。思い返せば小学校六年と中学一年、または中学三年と高校一年では、まったく別世界が待っているように思えたのになあ。
なんてことを考えていたのは「さようならアルルカン」を電子書籍にて読んだから。いくつかの短編がおさめられているが、特に私は表題作の「さようならアルルカン」が好きだった。
「私」がつい目で追ってしまう彼女。
ほかのクラスメイトとは違って、群れることをせず、率直な意見を持っており、周囲から一目置かれていた彼女を目の当たりにする「私」、はじぶんにもじぶんだけの秘めた感情があることを突きつけられる。のだけれど彼女のようには強くなれない。「私」はいつも心のなかで彼女を追いかけるようになる。けれども、そんなふうにあこがれの眼差しでみつめていた彼女は、いつしか周囲の目に敏感になり変わっていってしまって……。
短いお話のなかに、小さな、けれどあの頃はすべてだった世界が凝縮されていた。道化になって笑うのも、ほんとうの気持ちと表向きのじぶんとのちぐはぐで揺れるのも、大人になって読んでも胸がきゅっと縮こまって切なくなって。
あの頃は、微笑ましいなんて大人からみられても、そんなふうには思えなかったし、もっと毎日が切実だった。今と同じように変わること・変わらないことの間で必死だったからだ。
あと何年かすればこうしている今のことも同じように思い出すのかなあ。
なんて考えながら、懐かしい曲をききながらの甘酸っぱい時間になった。