*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。
「美味しそうってイイネ」
2019.03.29
夜型人間で、最後に朝食を食べたのはいつだったか、まったく思い出すことができない。
料理も苦手だし、インスタント・お惣菜様々だし。
でも、おいしそうなごはんの小説はすき。じぶんでつくれないぶん、起きれないぶん、文字で味わって、ぼわんと湯気が浮かぶのや、漬物をしゃくしゃく噛む音などを想像してはひとり喜んでしまう。
「鏡をみてはいけません」を読んだ。
田辺聖子さんの小説を読み始めたのは最近なのだけど、まあでてくるごはんのなんとおいしそうなことよ!
料理が苦手な私でさえそうおもうのだから、調理過程に詳しいひとなんかはほんとに涎たらしちゃうんじゃないだろか、なあんておもってしまうぐらい、色や、やわらかさや、においが伝わってくる。
主人公の野百合はとにかく料理上手だ。気張っているのではなく、とにかく料理をするのがたのしくて、食べたひとに喜んでもらうのがだいすきで――というほんとうに彼女の料理そのままのような、愛のつまったひと。
ひょんなことから交際相手の律の家に上がり込むことになった野百合。彼だけでなく、同居している律の前妻との子や、律の妹にも料理を振る舞うようになるのだけど、このまま住み着いて良いものなのか、仕事も中途半端だし、この先どうしていきたいのだろう、などとおもいはじめて……。
あらすじだけを書いてしまうと、そう珍しくない話のようになってしまうのだけど、でも凄いなあとおもうのはその珍しくない日常が、作者の手にかかるととびきり鮮やかに動き出すところ。
関西弁ばりばりのちょっぴり棘のある、けれど人懐っこい会話にも、時に傷つきながらもひょうひょうとキッチンに立ち続ける姿にも元気をもらえて。
あれ、「たのしい」って意外と転がってる? ちゃんとみてないだけで自分の日常も、おもってるほど悪くないのかも。なんてほくほくしてくるから不思議である。
ズボラ人間は脱出できそうにないけれど。寝転びながら、最後まで眼福な一冊であった。