yuriのblog

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お金の貯まらない読書通帳--「ふしぎなかぎばあさん」

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。

 

「お金の貯まらない読書通帳」

2017.05.04

 

これはあなたたちの通帳です。本を読めば読むほど読書貯金が貯まります。そう言って手作りの通帳を一人一人に配ってくれたのは担任の先生だった。

仕上がりはお世辞にも通帳とは言いがたいもので、けれど小学三年生だった私たちはそもそも通帳がどういったものなのかをよく分かっておらず、配られたペラペラの紙を言われるがまま折ったり貼ったり重ねたり。

読んだ本があればここに記録していきましょう。毎日の宿題にプラスして、けれど決して強制でなかった読書通帳はいつのまにか日々のささやかな楽しみになっており、読めば読むほど可視化されていく記録は素直に嬉しかった。

育った環境が少し特殊だったこともあり、ありがたいことに家には数え切れないほどの本があった。図書室と呼ばれていた部屋には多種多様な本が置いてあったため、対象年齢など全く気にせず思いきり背伸びして本を読むことができた。

思い返してみればあのころ世界は驚くほど狭く、何か一つ嫌なことがあっても、他でカバーできるほどの器用さは持ち合わせていなかった。いまいる場所、いま起きていること、いま目の前にいる人たちが全てだった。

だからこそ本が好きだった。ページをめくった先にある未知なる世界が見たかった。

いつのまにか読書通帳は鉛筆の文字でまっくろになり、気づけばクラスで一番の読書貯金が貯まっていた。なにがなんでも! などという気持ちではなく、楽しくて楽しくて、気づいたらそうなっていたことが何より嬉しかった。

 

「ふしぎなかぎばあさん」という児童書がある。鍵を失くしてしまった子どものもとに訪れる、優しいおばあさんのおはなしだ。黒を基調とした服装のおばあさんは一見怖そうに見えるのだけれど、美味しそうな料理を作ってくれたり悩みを聞いてくれたり、いつだって優しいかぎばあさんはあたたかいお布団のよう。

サンタクロースを信じていなかった可愛げぜろの自分。しかしどうしてだか、かぎばあさんは本当に出てきてくれそうな気がしていて、自分が鍵っ子でないことは都合よく忘れていたのだった。

かぎばあさんシリーズと同じく、大好きだった「こまったさん」。

 

たびたび出てくる歌に勝手にメロディーをつけ、かぎばあさんと同じく夢中で読んでいたことを思い出す。

当時は全く意識していなかったけれど、これらの物語たちは少しずつ、狭い世界をグイグイ広げてくれていたのかもしれない。そして本の面白さはもちろんのこと、読む自信をくれたお金のたまらない読書通帳にも、知らない景色を見せてくれてありがとうと言いたい。

拝啓小学三年の鼻垂れ小僧へ。おーい! 今も贅沢はできひんけど、あのころ読書貯金してて正解やったでえ!

(訳あって読書通帳はもう無いけれど、一年生のころの読書カードを発見してしまった。汚い字ですが、なんだかとても愛しいのでありました)

 

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