yuriのblog

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「いつか陽のあたる場所で」乃南アサ

 

 

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。

 

 

「人生のリセットボタンは押せないけれど」

2017.05.04

 

「いつか陽のあたる場所で」。

「いつか」。という三文字からは過去の痛みが伝わってきて、文字通り、物語の主人公「芭子」と「綾香」は前科を抱えている。

近所に悟られないように。できるだけ静かに生きられるように。芭子は失った七年の痛みに苦しみながら、一日を一日をなんとかこなしてゆく。息を潜め、過去の存在を暗闇に押し込めながら。

そんな芭子とは対照的に、明るく前を向こうとしているのが綾香で、あっけらかんとした笑い声、清々しいほどの気持ちの切り替えに、芭子は幾度となく助けられる。

犯してしまった罪の重さ。堂々と生きる後ろめたさ。人生のリセットボタンは押せないけれど、過去はいつまでもついてくるけれど。それでも過去は、今の芭子と綾香をつなぐ、唯一の出会いでもあるのだった。近所に住む老夫婦、客の来ないマッサージ店、綾香と行った動物園の景色なども同様に。

生きている以上、どんな人にも過去はある。たったいま生まれた赤ん坊にとっては、たったいま過ぎていった秒数が過去になる。芭子と綾香の過去も「いつか」人の群れにまみれてしまえばいい。二人の苦悩を知ってしまったいま、もちろん消えない痛みもあるけれど、そう願わずにはいられなかった。