yuriのblog

日々のあれこれや、小説・海外ドラマ・ゲームなど、好きなことについてたくさん書いていきます。

カトリーヌ・アルレー「わらの女」

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章を転載していきます。

 

 

「浅はかなあなたがとても好きでした」

2018.05.15

 


本を選ぶとき、あまりジャンルを意識することはないのだけれど、「わらの女」は読み終わってみれば、ひさしぶりのミステリーだった(らしい)。

 

私は毎日毎日もう少し自分にできることが他にあるんじゃないかとかこんなかんじで人生いいのだろうかとか、懲りずに考えてしまう。明日が今日よりよくなればいいななんて思ってしまう。

 

でも本当は分かってもいる。自分が期待している「明日」とか「この先」とか「将来」なんてものはなくて、時間が経ったってやってくるのは今と同じ今日。にもかかわらず、今日、今、この時にあるやるせなさを消したいがためにある日突然事態がよくなることをどこかで期待してしまう自分は阿保です。

 

だったら今やるべきことをやりなさい望むものを手に入れるために努力しなさい、けれども私は同じ今日を繰り返してしまうから、主人公の明確な欲望が清々しかった。

 

主人公ヒルデガルデのとにかく金をください良い生活をください、くだされば私はどんな怪物だって受け入れるし投げ出すこともしませんという気もちの良さ。毎日新聞広告で玉の輿にのるチャンスをみつける執念深さ。

 

独身で、翻訳の仕事では生活費を賄うのに精いっぱいで、ぎりぎりで、変わりたい。ヒルデガルデの望んでいるものはとてもシンプルで、人生お金だけではありませんと諭す声なんて耳に入らないほど、この時点では揺るがないもので。正直いって展開だけを見れば予想通りといえば予想通りではあったけど、でも、私はヒルデガルデの心を追いかけるのが楽しかった。人間らしいなあと思った。

 

ヒルデガルデさん。シンプルな欲望がえらいことになってしまったけど、あなたの思い描いていたもの、私は嫌いじゃないなあ。もう少し冷静に考えていればって思わなくもないけど、何事も、見えていない時ってそんなもんですよね。

 

計算高く欲しいもののためなら手段を選ばない現状に満足できない一つを変えればすべてがひっくり返ると信じ切っている。そんな浅はかすぎるあなたのことが、私は、とてもとても好きでした。