*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。
「手」を読み返した日
2020.09.07
ワインズバーグ・オハイオを読み返していた。
はじまりの「手」という短編、ほんのり覚えていたけれど読んでみたらほとんど忘れていたので、再読。
ひとりの男の話である。
男は悲しい過去を持っていた。
以前は教師をしていたのだが、彼はそこで生徒たちから慕われていたものの、あるひとりの生徒が放った事実とは異なることで、また別の証言、と持ち上がり町を追い出された。怒りに駆られた生徒たちの親により。
題名は「手」となっているが、この男は自分の中で衝動と闘っていたのだった。彼自身も、その衝動とは何なのか、分からないからこそ、のように見えた。
そして彼は教師をしていた街から逃れ、ワインズバーグ(架空の町らしい)で別の名前を持ち、ひっそりと暮らしている。
彼は手を、いつも落ち着きなく動かしている。ポケットに入れ、隠したり、素早く物を掴んだり。
住人たちは彼の手に魅せられ、注目した。
彼と唯一親しくしていた新聞記者のジョージ・ウィラードは、なんどもその手のことについて聞こうとしていたくらいだった。彼の抱え待っていた何らかについて。
解説を再び読む。
同性愛がタブーだった時代の、とあった。
短い話で、一人の登場人物のことが、手の物語が、ほんの少し書かれているだけだが、彼の中の葛藤とか、周りの視線とか、彼を通すからこそ、今ここから読んで、立ち止まる、
どの時代でも、どの場所でも、
あるのは、あったのは、変化の中で暮らして来た一人ひとりの生活だ、と。短編の最後で彼が部屋でひとり素早くパンくずを拾っていた姿がかなしい。いっぽうどこか神秘的で美しくて胸に残っている、彼のかなしみ孤独を見ることは遠い誰かのことではなかった。