yuriのblog

日々のあれこれや、小説・海外ドラマ・ゲームなど、好きなことについてたくさん書いていきます。

「彼の生きかた」遠藤周作

 

*以下の文章は、以前読書サイトにて投稿していたものになります。そのサイトが閉鎖される為、こちらに文章をうつしていきます。

 

 

「愛のあるひと」

2019.04.14

 

 

一平には、幼い頃から吃音があった。友人達と上手く馴染めなかった彼は、兎小屋によく行き、すすんで世話をするなど、動物たちとは、心を楽に接することができるようであった。

一平を気にかけてくれた教師もいた。彼女、秦先生は、それほど動物がすきなら、その道にすすめばどうか、といって一平を励ましてくれたのだ。

幼馴染の朋子には、いつも弱虫といわれていたが、一平にまっすぐ向かってくる負けん気の強い姿もまた、一平にとっては忘れられない存在だった。

大人になった彼は、自らの道をひたむきに歩み続け、日本猿の調査をするようになっていた。警戒心の強い猿を、辛抱強く観察し、群にはボスがいること、また、その下にも中堅のボスがいることが分かった。人間のように言葉を持たない猿にも、グループがあり、決まり事があると分かったのだった。

チンクシャとあだ名をつけた、まるで自分のように、他とうまくやれない猿もいた。彼はチンクシャに愛着を持った。自分を信頼してくれ、群まで連れて行ってくれたのもチンクシャだった。

彼はなによりも動物を愛した。人間の都合を優先させること、自然から無理に離すことは望んでいなかったし、のびのびと生かしてやるのが一番だと信じていた。研究というのは、あくまでもそのうえで成り立つものなのだと。

しかし、周りは必ずしもそうではなかった。
彼が、時間をかけて慎重に信頼を築いていったにもかかわらず、そんなのは誰にでもできることだといわれ、意見をいうと、協調性に欠ける、と聞く耳を持ってもらえなかった。

人間の都合に猿たちは振り回されていった。上手く話せない一平は不甲斐ない気持ちになった。僕にはなにもしてやれないのかと思った。

幼馴染の朋子との再会、その朋子目線でもまた、物語はすすむ。

朋子の心は揺れ動く。
一度決めたら断固としてゆずらない、豪腕で、力強い加納。ひたむきに、動物を愛し続けてきた一平。

作者の動物への愛情がひしひしと伝わってきた。
言葉には、物事を動かす力があるが、だからといって静かな場所が「ない」わけではない。

「彼の生きかた」。
不器用だけど、ほんとうに優しいひとだった。
寂しそうな後ろ姿がしばらく頭から離れなかった。