yuriのblog

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読書感想記録「ありふれた愛じゃない」村山由佳

 

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何気なく手に取った一冊だったけど、一気に世界観にはまり込んだ。

そして文章が上手だなあと、何様だという感じだが思った。

というのはこれまで文章の美しさを堪能する読書体験が多かったのだけど、この作品を読んでいる間は、良い意味で“文章の芸術”に意識が向かず、作品の持つ色彩、生命力、匂い、太陽の日照りなど、まるで目の前に景色があるかのように浸っていたからだ。

そしてそれは同じくメッセージ性にも言えることで、作品から作者のメッセージを受け取り勇気付けられることも多いけれど、同時にそれが物語より強いと、メンタルが弱っているときはしんどいことも多かった。

しかしこの本を読み終わった今は、自然と受け取ったものが結果的に心の奥深くに根付いている気がする。

そのことがとても嬉しく感じた。

 

読者である自分が住んでいる北陸とは真逆の気候であるタヒチの物語。

主人公の女性の揺れ動く心。安定した生活。からは遠いのにも関わらず惹かれる安定とはかけ離れた男。透き通る海。綺麗事ではやっていけない仕事。セクハラ上司。しばらく読書から離れていたのに、もっと読みたい、と読む時間が楽しみだった。

 

官能的な文章はもちろんこの作品の大きな魅力だけど、それ以上に“生きる力”を感じた。大袈裟になるが、読んでいる、今現在生きている自分を感じた。それはこの作品と共に、生きていくとは何か、自分はどう歩むか、を考えていたからだと思う。繰り返しになるけれどお説教ではなく無意識の内に、というのが心地良かった。

 

この作品を読んだことで作者の他の作品も読みたくなり、何冊か購入。

手元にある別の世界を読み始めるのが楽しみである。